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<漁具>
 男鹿半島・北浦漁港。30年以上前の私にとっては、仕事の単なるエリアだった。
 民謡「秋田音頭」では、♪八森ハタハタ男鹿で男鹿ブリコ・・と軽快な唄なのだが、冬は、道幅は狭く、吹きっさらしの凍結・圧雪路の連続で「今日も男鹿かぁ」という想いだけだった。
 それでも、魚屋の冷凍庫修理では、「おめ、カニ喰うだか」と、おおきなズワイガニを新聞紙にそっとくるんで渡してくれるおばさんもいた。そんなときは、会社に持ち帰って先輩と酒をくみかわし、「おめぇは、修理に行ってんだかわからねぇなぁ。出かけるとかならず、何か貰ってくるんだからなぁ」と云われたものだった。
 それから、時は流れ、仕事も変わって、私は、男鹿の地に立っている。

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